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出勤停止を命じられる

 

 サマーキャンプが私の本業に大きく影響を与えるのは当然で、そうでなくても会社の業務が「この一年間おろそかになっている」と思われている状況下で、決定的に「仕事になってない」ということになってしまった。

 加えて、COARA‐3のための打ち合わせは五月下旬より一週間に一度の割合でスタートしているし、その手を抜くわけにはいかない。会社の実権は父が会長として握っており、社長を経由して専務である私の行動を厳しく叱責してくる。当然といえば当然なのだが、「今しばらく時間を。コレコレこういった事情で今さらコアラを放り出すわけもいかず、電気工事会社として情報通信は無縁ではなくインテリジェントビル建築のノウハウにもつながるだろうし」と説得を続けるが、父は実の息子であるがゆえに社員の手前上、厳しく叱咤してくる。それでもコアラを止めない私にネを上げて、「出勤停止」処置を打ち出してきた。

 「基本的な給与は保証してやるが、オマエが会社に出てきて会社の中で社員が本業を一生懸命している中で一人だけ他の話をされては会社がまとまらない、乱れてしまう。どうしてもコアラを止めないなら会社に出てくるな、頭を冷やすまで出勤停止だ」ということで、社員に対しては厳しく歯止めを行いつつ、私には厳しい中にも自由を保証するという、苦肉の策だったのだろう。八月中旬以降は毎週月曜日の朝礼に一時間ほど出る(これは苦痛だった。一部の社員は「仕事をしないどら息子専務」という見方を露骨にする者もいたがガマン、ガマン、今にわかってもらおう)だけで、あとは自宅に帰りCOARA‐3のシステムづくりを行う、というパターンが始まった。

 会社と自宅は同じ敷地内にあり、直線で七十~八十メートル離れてはいるが内線でつながっており、代役がきかない最低限の外部との付き合いは連絡があって果たさざるを得ないのだが、いかんせん、基本的給与だけでは金が足らない。おまけに、COARA‐3開発のためには東京にたびたび出かける必要が出てきたが、その金も会社からは出ない。苦しかった。会津さん、中村さんのネットワーキングデザイン研究所もできたばかりでお金がない。それ以降も何度も大分にきてくれるようになるのだが、宿泊代を浮かし、コミュンケーション効率化のために我が家に宿泊してもらう。また、東京宣伝隊として多くの人達を大分に送り込んでくれたのだが、時にはひどい財政状態の時があって、彼ら取材者をもてなすコーヒー代さえままならない。にっちもさっちもいかない。奥さんはよく我慢してくれたと思う、感謝。

 そんな状況で、東京行きを可能にしてくれたのが外部講演会である。四月のフォーラム以降、ポツリポツリと声がかかり始め、そういった機会をよく利用した。たとえば、松坂屋の松本操央さんはいち早くパソコン通信を使ったショッピングを検討していて、当時としてはめずらしい「パソコン通信フェア」を八月九、十日に松坂屋上野店で催した。そこでコアラのことを話す機会を与えてくれ、さまざまな人達と出会えるチャンスとなった。

 例のASSIST社の大西篤志社長ともそこではじめて顔を会わせることができた。また、COARA‐1時代、自らがホストプログラムをつくらざるを得なかったパソコン通信開拓者達の多くと出会えた。とくに、パソコン通信の可能性に魅せられて脱サラでホストやソフトウェア開発に取り組むほか、その類の本を矢継ぎ早に出版していたキャンズの横田秀次郎さんに会えたことはうれしかった。何しろ、COARA‐1のプログラム制作では彼の本を隅から隅まで読ませてもらったし、一度はどうしてもわからない点を自宅にまで電話して聞いたところ、私の一時間半の話を最後まで聞いてくれ、「おなじパソコン通信ホスト局開設でも、地方の大分と我々ではえらいスタンスが違うんですねー」と感想をいっていたのを思い出す。これはよく聞かれた感想で「草の根とはいいながら、いがいにコアラは戦略的(?)なネットワーク開局なんですね」「しかし、県がか絡まっているとはいえ、いまだに草の根的な内容だし」といわれることが多い。情報市民公社的でありたい、と思うがゆえの話し方だったのかも知れない。

 というように東京行きは、過去を整理させ未来を考えさせる場となり、かつ、情報発信とともにCOARA‐3への情報収集をよりスムーズにさせるよい機会となった。これも出勤停止だからこそ自由に東京に行けたということだろう。

 出勤停止は懐を圧迫して苦しむ結果となったが、出勤停止だからこそこういった東京からの呼び掛けに対して、仕事の都合を気にせず自由に出かけられる環境をもたらした。その後の一年間の出勤停止期間が私にとってコアラの将来構想の最大のバネ・仕込みになったのはいうまでもない。



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