post72:1985年5月、突然の発足

1985年5月、突然の発足

 

 5月の連休明け、南さんがちょっと病院を抜け出して情報センターに来ていると聞いて、もしかすれば、、、と私も顔を出してみた。南さん、あまり顔色はよくないものの、ご自分の方から先日の見舞いの礼を皮きりに例の本の中身について言いだし始めた。

 「尾野さん、あの本によるとアメリカはいろなことをやってるんだねぇ。」

 「ええ、南さん、テクノポリス調査で一緒にシリコンバレー行った時、損したですねー。こういうことをアメリカでやっていると知っていたらもっと面白かったでしょうにねー」

 と、そこへ折りよく北村専務がぶらりと現れて、

 「どうした? 何が面白いって?」

 「いやぁ、尾野さんが入院見舞いに面白い本を持ってきてくれてですねー、それによるとアメリカではデータベースが新しい使い方をされているらしいですよ、、、」

 今や、時来たれり! 我、話さん。

 「実は、コロンブスがそういった風に使えないか、と思ってですね。せっかく情報センターに本格的なデータベースができるならば、従来型の機能だけでなくて新式・未来型、アメリカ型の機能があればいいと思ってるんですけど、、、」

 「ほう? 具体的にはどんな機能だい?」と北村さん。

 そこで、電子メールや電子掲示板のことを説明。北村さんはがぜん興味を持ってきて、我々を専務理事室に移動させ腰を据えて詳しく聞きはじめた。で、日本国内の今からそれらが急激に注目されるであろう現況を説明しつつ、

 「ついてはですね、南さんにお願いして、情報センターに余っているパソコンを借りてそれをミニ実験ホストコンピュータにしたらどうか。実験しながらコロンブスのユーザーグループを育てつつ、そういったアメリカの新しい機能が我々中小企業者にどういった影響があるか研究していったら? って思ってるんですけど。。。。」

 「それはいい、そうやってコロンブスを使いこなすことを目的としたグループは大歓迎だし、実はどうやってそういったグループを作るか悩んでいたんだよ。ぜひともやろうじゃないか!」

 「尾野さん、大分ではそういった気持ちになってくれるのはどんな人達が考えられる?」と南さん。

 「そーですね、まず、後藤国利さん」

 「えっ、後藤県議がやるの?」

 「ええ、あの人は面白いですよ。もうだいぶ前から会社の仕事にも選挙にもパソコンを使ってますよ」

 北村さんは、意を決したように、

 「尾野君、よし、すぐやろう。君は友達範囲に呼びかけてくれ。情報センターでソフトパーク内の企業や、情報センターで活動しているマイコン研究会の面々に呼びかけてみるから」

 「はい、わかりました。いつからにしますか?」

 「1週間あればいいだろう。一週間先の15日にしよう」

 「えっ、一週間先!」

 「まてまて、こういうものは縁起物だから大安吉日の16日にしよう。呼びかけるのに名前がいるなぁ、何かいい名前があるかい?」

 「そうですねー、大分コンピュータ通信協会ということで、Computer-communication Oita Association、その頭文字をとってCOAでどうです? コアって核という意味になるでしょう?」

 「それじゃいかんよ、〝ラ〟をつけんさい、ラを」

 「ラ?」

 「そう、今まさに『コアラ』ブームだろう、、、。どうも県や情報センターがやるものは堅苦しくていかんから、いっそのこと可愛い名前でいこう」

 「はー、なるほど。〝ラ〟ですねー、RとAですか・・・・・じゃ、我々は通信の新しい使い方を研究することでもあるでしょうから、Researchという単語と、『金儲けが目的ではない』意味を込めて Amateurを使いましょうか?」

 といったやり取りで、大分パソコン通信アマチュア研究協会/Computer-Communication of Oita Amateur Research Association/C.O.A.R.A.の名前が決まってしまった。(どうもハイテクらしくないなぁ、大丈夫だろうか? と思ったけど。)

 北村さんも南さんも話が早い。こういったマエムキの判断力と行動力が買われてるからこそ、こういった新規プロジェクトが目白押しの情報センターを任されているんだろうな。とは思うものの、1週間しかないという期日に、私はちょっと慌てます。

 後藤カイチョーと藤野君、知之君、弟には話してますが実際どうなるかわからないのでそんなに話しを広げていませんものね。早速日本経済勉強会の若手メンバーや、青年会議所のパソコンに興味を持ちそうな人達、さらにはこれからいろんなことに積極的に取り組もうとする友人たちに、それこそ大慌てで声を掛けて廻ったんです。

 そして、いよいよ当日。何人来るだろうか? 不安な気持ちで会場の情報センターに出掛けたところ、なんと急な案内だったのに、声を掛けた殆どの方々が集まってくださった。その数30人。加えて思いもかけず報道機関の方々が10人以上。テレビカメラを見て、集まった面々は取材されるほど重要で話題性のあることか、と気を良くし互いに興奮の様子。俄然熱を帯びたCOARA発足式になりそう。

 と、定刻の開始時間直前に北村専務が「尾野君、ちょっと、、、」と外に呼び出します。

 「なんです?」

 「会を発足させるのはいいけど、会長をどうしようか?」

 「え、北村さんがやられるのではないのですか?」

 「いやねー、コロンブスの利用促進を情報センターの外から応援しよう、というグループだろう? だったら私では当事者すぎておかしくなりそうだよ。やっぱり後藤国利さんだよ」

 なるほど、と思い、後藤カイチョーを外に呼んで事情を慌てて説明します。彼曰く、

 「北村さんが会長だって決しておかしくないよ。主催者と利用者が一緒になって情報センターの情報通信ネットワークを研究し、よりよいものにしようというんだから」

 しばらく北村専務理事と後藤カイチョーの押し問答が続くが、会場の中から何人かが何事か?といった顔つきでこちらを見ているので焦ってしまう。

 で、後藤カイチョーは、

 「わかりました。じゃぁジャンケンしましょう。ジャンケンで負けたほうが会長となりましょう」

 北村専務も了解して、ジャンケン。結果は後藤カイチョーの負け。こんなものでいいんだろうか?

 さて、いよいよ緊張の中に開会。北村専務の挨拶の後、最初に情報センターからコロンブスの説明。これが私にとってはとても長く感じられる時間で、じりじりする思い。早くそういった今までのデータベースを通り越した、新しいオンライン・データベースのことを話し合いたい、電子メールや電子掲示板のことを相談したい、、、ようやくの思いでコロンブスの説明終了。いよいよ会を発足させることの審議がおこなわれ、予定どおりすんなりと会長決定。私は事務局長。一人しかいないんだから別に長でなくたっていいのだけれど、と、思いきや情報センターが全面的に事務処理をしてくださる、情報課の雪野さんが手伝って下さるということで、感謝です。

 

 後藤カイチョウーはこれからネアカに頑張りましょう、と就任の挨拶。そして私にパソコン通信やアメリカの状況をよく説明しなさい、とさっそくこっちに振ってきた。で、延々とデータベースの進化状況やアメリカのコンピュサーブの実際状況、それを数年遅れで追っかけようとする日本の状況等を話してみます。いがいや、皆さん一生懸命に聞いてくださる。報道関係の方々も取材を終えたと思われるのに帰らない。会員の方々同様に資料をめくって面白がって下さる。電子メールがアメリカの新聞記者では当たり前で、絶対的な武器になっている理由を今までのメディアとは違う点を上げて説明すると、うなずいてくださる。嬉しいですねー。お義理の取材じゃなかったんだ。きっと皆、誰でも技術の進歩がもたらす、思いもしない、めくるめくような未来世界には、子供のように憧れの目でみてしまうんだろうなぁ。藤野君や私達だけじゃぁなかったんだ。

 全てのテレビ局にこのニュースが流れた興奮の一日が過ぎて、翌朝の新聞(大分合同新聞)には、次のような記事が載った。


 『パソコン研』うぶ声 ─── 中小企業の情報網づくり

 

 パソコンを利用、会員企業の情報交換のほか、ことし十月から県地域経済情報センターを核にスタートする中小企業地域情報ネットワークづくりに参画することを目的に十六日、地場企業・団体三十社が大分市のソフトパークセンタービルで『大分パソコン通信アマチュア研究協会』を設立した。これまでの情報化は行政主導色が濃かったが、同協会はパソコン通信に関心を強めている地場企業の間から設立の気運が盛り上がったもので、県地域経済情報センターも高く評価。地域情報の構築に一役買うものと期待している。

 同協会は鬼塚電気工事の尾野徹専務が中心となり、パソコンを使った通信に興味を持つ企業経営者などが賛同。中小企業の情報ネットワークシステムの確立をめざし、ことし十月にホストコンピュータの導入する県地域経済情報センターに協力を求めた。同コンピュータは中小企業事業団などからの情報を受けるが、それに電話回線を通じ、会員企業が音響カプラーとパソコンをつなぐことで、中央の情報はもとより、会員企業がそれぞれの情報を提供したり、引き出すこともできるようにしようという狙い。

 当面は県地域経済情報センターのパソコンを中心に、会員企業がパソコン通信の第一歩を踏みだす計画。将来は地域情報ネットワークシステムの中で、メーンとなる企業、業界団体、一村一品、人材、イベントといった交流情報の確立にもパソコン通信の役割が期待できそうだ。

 すでに国内では日本航空がITCジャパンと提携、パソコン通信を活用したJAL旅行情報システムを手がけ、目下約四百会員が集まり、旅行情報の提供や電子掲示板サービスなどを行っている。また、アメリカではパソコン通信業務の企業も育ち、ニュースや仕事、旅行、買い物など幅広い情報が会員に提供されている。

 協会は月一回例会を開き、パソコン通信の利用法の研究などを続けていく。なお、会長に後藤国利臼杵製薬会長を選んだ。

 

どうにかこうにかの、おっかなびっくりのスタート。これが本当の始まりだった。


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 *音響カプラーとは電話でコンピュータ同士の通信をする時に使う装置。受話器を音響カプラーにセットすればプログラムやデータの送受信ができる。



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