post272:第1綴 第4章 神生み
(1)背景説明
アマツトヨタ、オオカシヒコなど、他には見えない神格を挙げたり、記紀が単独で挙げる神格に男女双方の名を与えて夫婦神にしたり、記紀の神格を天上の星辰になずらえたり、大神格に粉飾的雅名(ふんしょくてきがめい)を設けるなどして、特異で修辞的な神格群を網羅する。特に火・水・風・土の四元論を拠り所にそれぞれの原理に仮託した4つの祖星を設け、古来の日本の思想には見られない神格体系を繰り広げている。
伊邪那岐と伊邪那美の神々
(2)平易訳
伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と
伊邪那美命(いざなみのみこと)は、
国や島々を生み終えたあとも、
さらに多くの神々を生み続けました。
この章では、
世界を成り立たせるために必要な
さまざまな力や働きが、
神として生まれていく様子が語られています。
最初に生まれた神々は、
天(あめ)にあって星(ほし)と結びつけられ、
それぞれが異なる「魂(たま)」の性質を持つ存在として
位置づけられています。
石や土、戸や風、屋(や)や木といった、
世界の基礎となるものに関わる神々は、
男女一対の神として生まれ、
天にあって星の神とされました。
こうした神々は、
火・水・風・土といった
自然の根本的なはたらきを表す存在でもあり、
世界のしくみを支える役目を担っています。
その後、
海や川、水の流れからも、
多くの神々が生まれました。
波やしぶき、水を分け与える力など、
水のさまざまな働きが、
神の姿で表されています。
さらに、
伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が
「この国は、霞(かすみ)のような香りに満ちている」
と語り、息を吹き払ったとき、
風を司る神が生まれました。
この神は、
風や空気の流れを表す存在として、
星の祖(おや)の神とされています。
次に、
山や野を司る神々が生まれました。
山や大地そのものを象徴する神は、
万(よろず)のものを生み出し、
育て、守る存在として語られています。
この神々からは、
土や霧、闇や戸といった、
目に見えにくいけれども
世界に欠かせない働きを持つ神々が、
次々と生まれました。
また、
天と地を行き来する船の神や、
食物を司る女神も生まれ、
人の暮らしに直接関わる力が整えられていきます。
やがて、
火の神が生まれたとき、
伊邪那美命(いざなみのみこと)は
その激しい熱によって身を焼かれ、
病に伏してしまいました。
その苦しみの中からも、
金属や土、水に関わる神々が生まれ、
自然界のさまざまな働きが
次々と形づくられていきます。
最後に、
稲や穀物、食べ物を司る神々が生まれ、
人の命を養う力が、この世にもたらされました。
こうして、
国や島だけでなく、
自然、星、食物、暮らしに関わる
あらゆる力が神として生み出され、
世界は完全な姿へと近づいていったのです。
(3)逐意訳(現代語訳)
伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と
伊邪那美命(いざなみのみこと)は、
八百万(やおよろず)の国々と無数の島々をお造りになり、
さらに多くの神々をお生みになった。
最初に生まれたのは、
大事忍男命(おおことおしおのみこと)と
大事忍女命(おおことおしおめのみこと)である。
この二柱(ふたはしら)の神は天(あめ)にいて、
むつ魂(たま)の星(ほし)の神と呼ばれている。
次に生まれたのは、
石土彦命(いわつちひこのみこと)と
石土姫命(いわつちひめのみこと)で、
この二柱は
けく魂の星の神と呼ばれる。
次に、
大戸日別命(おおとひわけのみこと)と
大戸日姫命(おおとひひめのみこと)が生まれ、
この二柱は
いや魂の星の神である。
次に、
天之吹男命(あめのふきおのみこと)と
天之吹女命(あめのふきめのみこと)が生まれ、
うか魂の星の神となった。
次に、
大屋彦命(おおやひこのみこと)と
大屋姫命(おおやひめのみこと)が生まれ、
さな魂の星の神と呼ばれる。
次に、
風木津別忍男命(かざきつわけおしおのみこと)と
風木津別忍女命(かざきつわけおしめのみこと)が生まれ、
みな魂の星の神となった。
次に、
伊和都若男命(いわつわかおのみこと)と
伊和都若女命(いわつわかめのみこと)が生まれ、
ふく魂の星の神となった。
次に、
天津豊田命(あまつとよたのみこと)と
天津豊田姫命(あまつとよたひめのみこと)が生まれ、
はや魂の星の神となった。
次に、
大橿彦命(おおかしひこのみこと)と
大橿姫命(おおかしひめのみこと)が生まれ、
なか魂の星の神となった。
次に、
塩凝男命(しおこりおのみこと)と
塩凝女命(しおこりめのみこと)が生まれ、
かむ魂の星の神となった。
さらに、
海(うみ)と川(かわ)から生まれた神々として、
大綿津見命(おおわたつみのみこと)、
その妹の大綿姫命(おおわたひめのみこと)、
速秋津日子命(はやあきつひこのみこと)、
その妹の速秋津姫命(はやあきつひめのみこと)が生まれた。
また水の働きから、
沫那芸命(あわなぎのみこと)、
沫那美命(あわなみのみこと)、
頬那芸命(つらなぎのみこと)、
頬那美命(つらなみのみこと)、
天之水分命(あめのみくまりのみこと)、
国之水分命(くにのみくまりのみこと)、
天之久比奢母智命(あめのくひざもちのみこと)、
国之久比奢母智命(くにのくひざもちのみこと)
が生まれた。
そして最後に、
八百万(やおよろず)の人間(ひと)たちが生まれた。
伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は
伊邪那美命(いざなみのみこと)にこう言った。
「私とあなたが生んだこの国は、
霞(かすみ)のような香りに満ちている。」
そう言って息(いき)を吹き払われた時、
その息から生まれた神が
天渡志国渡志狭霧産巣日命(あめわたしくにわたしさぎりむすひのみこと)
またの名を
志那戸辺命(しなとべのみこと)、
志那都比古命(しなつひこのみこと)、
志那都比売命(しなつひめのみこと)
という。
この二柱の神は、
天の西にいて、
星の祖(ほしのおや)の神として鎮まっている。
次に生まれたのは、
山(やま)や野(の)の神である
久久能智命(くくのちのみこと)と
その妹の鹿屋野比売命(かやのひめのみこと)である。
この神はまた野椎命(のづちのみこと)とも呼ばれる。
次に、
万(よろず)のものを司(つかさど)る神が生まれた。
その名は
天之大土国之大土大御守山津見産巣日命
(あめのおおつちくにのおおつちおおみもりやまつみむすひのみこと)、
またの名を
大山津見命(おおやまつみのみこと)という。
その妹は
大山姫命(おおやまひめのみこと)である。
この二柱の神は、
天の道々に座して、
高知星(たかしりぼし)の祖(おや)の神として鎮まっている。
この二柱の神が、
山と野の働きによって、
さらに多くの神々を生んだ。
それは
天之狭土命(あめのさづちのみこと)、
国之狭土命(くにのさづちのみこと)、
天之狭霧命(あめのさぎりのみこと)、
国之狭霧命(くにのさぎりのみこと)、
天之闇戸命(あめのくらとのみこと)、
国之闇戸命(くにのくらとのみこと)、
大戸惑子命(おおとまどひこのみこと)、
大戸惑女命(おおとまどひめのみこと)
である。
次に生まれた神は、
鳥之石楠船神(とりのいわくすぶねのかみ)、
またの名を
天之鳥船神(あめのとりふねのかみ)という。
この神は、天と地を行き来する船の神である。
次に生まれたのは、
大宜都比売命(おおげつひめのみこと)である。
次に生まれた御子(みこ)は、
天津座高津座置清御魂瑞之火産巣日命
(あまつくらたかつくらおききよみたまみずのほむすひのみこと)
またの名を
火之夜芸速男命(ひのやぎはやおのみこと)、
火之迦具土命(ひのかぐつちのみこと)
ともいう。
その妹は
火之夜芸速女命(ひのやぎはやめのみこと)、
またの名を
火之玄姫命(ひのかがひめのみこと)である。
この二柱の神は、
天の北にあって、
星の祖の神として鎮まっている。
この火の神を生んだ時、
伊邪那美命(いざなみのみこと)は
その激しい熱によって身を焼かれ、
病(やまい)に伏してしまわれた。
その時、
伊邪那美命が吐(は)いたものから生まれた神は、
天御魂国御魂穿神常座金山産巣日命
(あめみたまくにみたまうけがみとこくらかなやまむすひのみこと)、
またの名を
金山毘古命(かなやまひこのみこと)という。
その妹は
金山毘売命(かなやまひめのみこと)である。
この二柱の神は、
豊道原(とよぢのはら)にあって、
常星(とこぼし)の祖の神として鎮まっている。
次に、
伊邪那美命が排泄(はいせつ)された時に生まれた神は、
天津降万正斎美生立波邇産巣日命
(あまつくだまさかいみうましなみむすひのみこと)、
またの名を
波邇夜須毘古命(はにやすひこのみこと)という。
その妹は
波邇夜須毘売命(はにやすひめのみこと)である。
この二柱の神は、
天の東にあって、
よち星の祖の神として鎮まっている。
次に、
尿(いばり)をされた時に生まれた神は、
天清豊道辺神御魂柝弥都波産巣日命
(あめさやとよみちべかみみたまさくみつはむすひのみこと)、
またの名を
弥都波能男命(みつはのおのみこと)という。
その妹は
弥都波能売命(みつはのめのみこと)である。
この二柱の神は、
天の南にあって、
いみ星の祖の神として鎮まっている。
次に、
伊邪那美命が身を起こされた時に生まれた神は、
和久産巣日豊種津魂命(わくむすひとよたねつたまのみこと)、
その妹の
和久産巣日豊種津媛命(わくむすひとよたねつひめのみこと)である。
この二柱の神が生んだ御子は、
豊宇気毘売命(とようけひめのみこと)、
またの名を
豊遠迦媛命(とよおかひめのみこと)、
大宜都比売命(おおげつひめのみこと)、
宇迦之御魂命(うかのみたまのみこと)
ともいう。
この女神が、
火産霊命(ほむすびのみこと)の御子である
宇迦之御魂男命(うかのみたまのおのみこと)と結ばれて生んだのが、
稲依日子命(いなよりひこのみこと)
次に
稲依日女命(いなよりひめのみこと)である。
これにより、
稲と穀物、
すなわち人の命を養う食物の神々が
この世に現れたのである。
(4)原文(解読文)
【ここに伊(い)邪(ざ)那(な)岐(ぎ)の命(みこ)(と)
伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこ)(と)
八(や)百(もも)萬(よろ)の(づ)国(くに)島(しま)
萬(よろ)国(づく)を(に)蒔(ま)き竟(を)エたまイて
更(さら)に神(かみ)たちを生(う)ましたまウ
故(かれ)生(う)みませる神(かみ)の御(み)名(な)ハ
大(おお)事(こと)忍(おし)乎(を)伎(ぎ)※2※4 の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
大(おお)事(こと)忍(おし)乎(を)美(み)※3※5 の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
むつ魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
石(いわ)土(つち)毘(ひ)古(こ)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
石(いわ)土(つち)比(ひ)売(め)※7 の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
けく魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す】
次(つぎ)に
大(おお)戸(と)日(ひ)別(わけ)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
大(おお)戸(と)日(ひ)比(ひ)売(め)の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
いや魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
天(あめ)之(の)吹(ふき)男(を)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
天(あめ)之(の)吹(ふき)女(め)の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
うか魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
大(おお)屋(や)毘(ひ)古(こ)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
大(おお)屋(や)比(ひ)売(め)の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
さな魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
風(かさ)木(げ)津(つ)別(わけ)之(の)忍(おし)男(を)※8 の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
風(かさ)木(げ)津(つ)別(わけ)之(の)忍(おし)女(め)の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
みな魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
伊(い)和(わ)都(つ)稚(わか)男(を)※9 の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
伊(い)和(わ)都(つ)稚(わか)女(め)※10 の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
ふく魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
天(あま)津(つ)豊(とよ)田(た)※11※13 の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
天(あま)津(つ)豊(とよ)田(た)媛(ひめ)※12※14 の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
はや魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
大(おお)橿(かし)比(ひ)古(こ)※15 の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
大(おお)橿(かし)媛(ひめ)※16 の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
なか魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
塩(しを)凝(こり)之(の)男(を)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
塩(しを)凝(こり)之(の)女(め)の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)ハ
天(あめ)に在(ま)して
かむ魂(たま)星(つつ)※6 の神(かみ)と申(まを)す
天(あめ)の道(ち)々(ぢ)に在(あら)座(くら)坐(ま)して
高(たか)知(しり)星(つつ)※19 御(み)祖(をや)の神(かみ)と申(まを)す
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)
山(やま)野(ぬ)に因(よ)り持(も)ち別(わ)けて生(う)みませる神(かみ)の御(み)名(な)ハ
天(あめ)之(の)狭(さ)土(づち)の命(みこ)(と)
国(くに)之(の)狭(さ)土(づち)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
天(あめ)之(の)狭(さ)霧(ぎり)の命(みこ)(と)
国(くに)之(の)狭(さ)霧(ぎり)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
天(あめ)之(の)闇(くら)戸(と)の命(みこ)(と)
国(くに)之(の)闇(くら)戸(ど)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
大(おお)戸(と)惑(まど)子(ひこ)の命(みこ)(と)
大(おお)戸(と)惑(まど)女(ひめ)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
鳥(とり)之(の)石(いわ)楠(くす)船(ふね)の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
大(おお)宜(げ)都(つ)比(ひ)売(め)※20 の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
御(み)崎(さき)の神(かみ)※21
次(つぎ)に
火(ひ)之(の)夜(よる)藝(ぎ)速(はや)男(を)※22 の神(かみ)
次(つぎ)に
火(ひ)之(の)炫(かがやき)男(を)※23 の神(かみ)
次(つぎ)に
火(ひ)之(の)迦(か)具(ぐ)土(つち)※24 の神(かみ)
これの火(ひ)の神(かみ)たち
天(あめ)に在(ま)して
あま元(もと)星(つつ)※23 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
水(みづ)速(はや)玉(たま)の命(みこ)(と)※25
次(つぎ)に
水(みづ)柔(やわ)玉(たま)の命(みこ)(と)※26
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)
天(あめ)に在(ま)して
くに元(もと)星(つつ)※25 の神(かみ)と申(まを)す
次(つぎ)に
木(き)花(はな)咲(さ)耶(や)姫(ひめ)※27 の命(みこ)(と)
次(つぎ)に
磐(いわ)長(なが)姫(ひめ)※28 の命(みこ)(と)
これの二(ふた)柱(はし)の神(かみ)
天(あめ)に在(ま)して
四(よ)元(もと)祖(そ)星(つつ)※27 の神(かみ)と申(まを)す
これの神(かみ)たち
天(あめ)に在(ま)して
天(あめ)の御(み)柱(はしら)※29 と申(まを)し
国(くに)に在(あ)りて
地(つち)の御(み)柱(はしら)※29 と申(まを)す
(5)語句注釈
※1ここにいざなぎのみこといざなみのみことやももよろづのくに→みこのみなハいなよりひこのみことつぎにいなよりひめのみことをうみたまイき:
ここにいざなぎのみこといざなみのみことやももよろづのくに→みこのみなハいなよりひこのみことつぎにいなよりひめのみことをうみたまイき
このくだりは古事記「既生国竟更生神→次生大宜都比売神」(すでにくにをうみをへてさらにかみをうみます→つぎにおほげつひめのかみをうみまし=宣長訓(のりながくん))の記事に重なるが、古事記の神格(しんかく)を天上(てんじょう)の星辰(せいしん)になずらえたり、男神(だんしん)或(ある)いは女神(じょしん)のみ見(み)られる神格に男女(だんじょ)双方(そうほう)の2神(にしん)を当(あ)てたり、それぞれの神に修辞的(しゅうじてき)雅称(がしょう)を与(あた)えるなど、他(ほか)の書(しょ)に見(み)られない特異(とくい)な体系(たいけい)をくりひろげている。上紀(じょうき)の修辞修飾的(しゅうじしゅうしょくてき)創作(そうさく)を物語(ものがた)るものと言(い)えるか。
※2おおことおしをぎ:
おおことおしを
※3おおことおしをみ:
おおことおしをみ
古事記、古史成文(こしせいぶん)の「大事忍男(おおことおしを)」に対応(たいおう)。上紀(じょうき)は「おおことおしを」を名称(めいしょう)の基幹(きかん)とし、男性(だんせい)尾称(びしょう)き、女性(じょせい)尾称(びしょう)みをつける。
※4おおことおしをぎ:
おおことおしをぎ
※5おおことおしをみ:
おおことおしをみ
古事記、古史成文(こしせいぶん)の「大事忍男(おおことおしを)」に対応(たいおう)。上紀(じょうき)は「おおことおしを」を名称(めいしょう)の基幹(きかん)とし、男性(だんせい)尾称(びしょう)き、女性(じょせい)尾称(びしょう)みをつける。
※6むつたまつつ:
むつたまつつ
「つつ」は星(ほし)の古語(こご)。「ゆふづつ」は夕星(ゆうづつ)で宵(よい)の明星(みょうじょう)。暦月名(れきげつめい)むつび(1月)に対応(たいおう)して「むつ」。以降(いこう)、けくたまつつ、いやたまつつ、うかたまつつ、さなたまつつ、みなたまつつ、ふくたまつつ、はやたまつつ、なかたまつつ、かむたまつつはそれぞれけさり(2月)、いやよ(3月)、うかれ(4月)、さなえ(5月)、みなつ(6月)、ふくみ(7月)、はやれ(8月)、なよな亦(また)はながつき(9月)、かむなめ(10月)に対応(たいおう)し、各暦月(かくれきげつ)を星霊(せいれい)に託(たく)している。
※7いわつちひめ:
いわつちひめ
古事記は「いわすひめ」とする。古事記伝(こじきでん)は「つち」は「つつ」に通(つう)ずるとし日本書紀(にほんしょき)の「いわつつのめ」と同格(どうかく)と捉(とら)える。
※8かさげつわけ
かさげつわけ:
諸本集成古事記(しょほんしゅうせいこじき)の各種(かくしゅ)の有訓(ゆうくん)7種(しゅ)の内(うち)、訂正古訓古事記(ていせいこくんこじき)と古事記伝(こじきでん)の宣長訓(のりながくん)だけが「かざげつわけ」、他(ほか)はすべて「かざもつわけ」。古史成文(こしせいぶん)はかざげつわけ。
※9いわつわかを:
いわつわかを
※10いわつわかめ:
いわつわかめ
大日本神名辞書(だいにほんしんめいじしょ)に「伊和都比売(いわつひめ)」がある。播磨国(はりまのくに)赤穂郡(あこうぐん)新濱町(しんはまちょう)中島神社(なかしまじんじゃ)の祭神(さいじん)と言(い)う。他(ほか)に見(み)えない。
※11あまつとよた:
あまつとよた
※12あまつとよたひめ:
あまつとよたひめ
他(ほか)に見(み)えない。上紀(じょうき)の特異神(とくいしん)。
※13あまつとよた:
あまつとよた
※14あまつとよたひめ:
あまつとよたひめ
他(ほか)に見(み)えない。上紀(じょうき)の特異神(とくいしん)。
※15おおかしひこ:
おおかしひこ
※16おおかしひめ:
おおかしひめ
他(ほか)に見(み)えない。
※17まよろづ:
まよろづ
或(ある)いは「ちよろづ」(千萬(せんまん))の間違(まちが)いか
※18あとなとうめりしくにハさぎりのみかをり→いもしなづひめのみこと:
あとなとうめりしくにハさぎりのみかをり→いもしなづひめのみこと
この1節(いっせつ)は古事記(こじき)には無(な)く唯(ただ)日本書紀(にほんしょき)1書(いっしょ)25にある「我所生之国唯有朝霧而薫満之哉乃吹撥之気化為神號曰級長戸邉命亦曰級長津彦命」(わがうめるくにただあさぎりのみありてかをりみてるかなとのたまひてやがてふきはらういきかみとなるみなをしなとべのみこととまふすまたはしなつひこのみこととまふす)に重(かさ)なる。古史徴(こしちょう)はこれに依(よ)って古史成文(こしせいぶん)の記事(きじ)を作(つく)したとし、その訓(くん)は上紀(じょうき)に近似(きんじ)する。ここで特(とく)に注意(ちゅうい)すべきは、上(うえ)の1書25の1訓(いっくん)に見(み)える「あさぎりのみありてかをりみてるかな」の1句(いっく)である。この訓中(くんちゅう)、「ありて」を落(お)とせば「あさぎりのみかをりみてるかな」となり上紀(じょうき)の対応箇所(たいおうかしょ)「さぎりのみかをりみてるかも」と一致(いっち)し、古史成文(こしせいぶん)の「さぎりのみかほりみてるかも」に完全(かんぜん)に重(かさ)なる。因(ちな)みにただありてあさぎりのみみてるかな「唯有朝霧而薫満之哉」が日本書紀(にほんしょき)のこの部分(ぶぶん)の傍訓(ぼうくん)である。
※19たせつつ:
たせつつ
風精(ふうせい)の星(ほし)。上紀(じょうき)にはとむつつ、いみつつ、たせつつ、よちつつの4つの祖星(そせい)がある。原理的(げんりてき)にそれぞれ火精(かせい)、水精(すいせい)、風精(ふうせい)、土精(どせい)に仮託(かたく)されている。後出(こうしゅつ)のように、上紀(じょうき)を貫(つらぬ)く思弁(しべん)の糸(いと)は火水風(気(き))土(ど)の4元論(よんげんろん)である。涅槃経(ねはんきょう)には「地水火風ハ四大蛇(しだいだ)ノ如(ごと)ク」とあり、物質(ぶっしつ)がこの4元素(よんげんそ)から成(な)るとの思想(しそう)を語(かた)り、上紀(じょうき)との関連(かんれん)を示唆(しさ)する。因(ちな)みに北畠親房(きたばたけちかふさ)の元々集(げんげんしゅう)巻第八(かんだいはち)神宮下(じんぐうか)に水星(すいせい)風星(ふうせい)の名(な)が現(あらわ)れている。「たせ」を敢(あ)えて解釈(かいしゃく)すれば、「た」ははやちはやての「ち」「て」、或(ある)いは発語(はつご)か。「せ」はしなつひこしなとべの「し」、かぜの「ぜ」「せ」でともに息(いき)、風(かぜ)を意味(いみ)する語(ご)か。
※20おおかちひめ:
おおかちひめ
古事記(こじき)ではおおげつひめ(大宜都比売(おおげつひめ))として現(あらわ)れている。

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post272@158: 第1綴 第4章 神生み (5)語句注釈の続き
※21みさきのかみ:
みさきのかみ
火神(かしん)とされて名(な)を御崎(みさき)の神(かみ)というところから灯台(とうだい)の火(ひ)を司(つかさど)る神(かみ)か。
※22もたイ:
もたイ
上記(じょうき)の特異語彙(とくいごい)の1つ「もたう」の連用形(れんようけい)。すむ→すまう、はかる→はからうなどと同(おな)じ延語(えんご)。「もつ」(持(も)つ)→「もたう」ではないか。継続的(けいぞくてき)維持(いじ)の状態(じょうたい)であることから本訳(ほんやく)では「保(ほ)」を当(あ)てる。
※23とむつつ:
むつつ
火精(かせい)の星(ほし)。「とむ」を敢(あ)えて解釈(かいしゃく)すれば、チベット系(けい)gyarung語(ご)で、火(ひ)をtimi、ビルマ系(けい)p‘un語(ご)、samong語(ご)、megya語(ご)でt‘miと言(い)う(GRIERSON “The linguistic survey of India”)。miが語根(ごこん)。「とむ」との音韻(おんいん)近似(きんじ)がある。
※24このみこをうみますにゆみほどやかゑてやみこやします:
このみこをうみますにゆみほどやかゑてやみこやします
古事記(こじき)「因生此子美蕃登見焚而病臥在」に「このみこをうみますによりみほとやかえてやみこやせり」の宣長(のりなが)の訓(くん)あり。古史成文(こしせいぶん)11段(だん)は古事記(こじき)の文章(ぶんしょう)文字遣(もじづかい)と相違(そうい)があるが「みほとをやかえてやみこやしましましき」と同訓(どうくん)を掲(かか)げる。
※25よちつつ:
よちつつ
土精(どせい)の星(ほし)。「よち」は「ひぢ」と同義(どうぎ)ではないか。ひぢは土泥(どでい)のこと。或(ある)いは、「吉道(よしみち)」「吉土(よしつち)」か。或(ある)いは「秀道(ひいでみち)」「秀土(ひいでつち)」か。
※26あめさやるとよちべかむみたまさくみづはむすび:
あめさやるとよちべかむみたまさくみづはむすび
上紀(じょうき)特有(とくゆう)の神格(しんかく)雅称(がしょう)。
※27いみつつ:
いみつつ
水精(すいせい)の星(ほし)。仮(かり)に推(お)し量(はか)ればオーストロアジア系(けい)palaungwa語(ご)で水(みず)をom、oum等(とう)とする琉球(りゅうきゅう)古語(こご)で水(みず)を「うび」と言(い)う(吉田地名辞書(よしだちめいじしょ).島尻郡(しまじりぐん)ハイミゾの項(こう))或(ある)いは、「い」(斎(い))+「み」(水(みず))か。
※28とようけひめのみこととまをす→またうがのみたまのみこと:
とようけひめのみこととまをす→またうがのみたまのみこと
ここに見(み)える大宜都姫(おおげつひめ)の異名(いみょう)は古事記(こじき)の対応箇所(たいおうかしょ)に無(な)く古史成文(こしせいぶん)にほぼ同(おな)じ名辞複合(めいじふくごう)で現(あらわ)れている。
※29いなよりひこ:
いなよりひこ