post262:第1綴 第1章 開闢(かいびゃく)
『解読 上紀』 田中勝也
第1綴 第1章 開闢(かいびゃく)
基本的に古事記(こじき)、日本書紀(にほんしょき)、旧事記(くじき)等に見える天地開闢(てんちかいびゃく)伝説と始原(しげん)の神々の体系を以(も)て世界と歴史の原点と原像(げんぞう)を描く。イザナギ、イザナミについては他の文献や口碑(こうひ)に現れない粉飾的雅号(ふんしょくてきがごう)と云(い)うべき名称を掲げていて特異(とくい)である。
(1)背景説明
「上津文(うえつふみ)」は、日本の神話を伝える文献の一つとして知られています。ただし、その成立時期や史料的な位置づけについては、研究者の間でも見解が分かれており、現在では古事記・日本書紀とは異なる系統の神話を伝える文書として紹介されることが多いようです。
上津文一(その一)では、天地がまだ形を持たず、混沌としていた時代から物語が始まります。最初に現れる神々は、人間のような姿や物語性を持つ存在というより、宇宙や自然のはたらきそのものを象徴する存在として描かれているように読めます。
たとえば、「生む」「結びつく」「安定させる」といった概念が、神の名前として表現されています。
物語が進むにつれて、天と地の区別が少しずつはっきりし、国(土地)が形を持ち始めます。その過程では、男女一対の神々が繰り返し登場しますが、これは生命が生まれ、世界が広がっていく仕組みを象徴的に示しているとも考えられます。
最終的に登場するのが、伊邪那岐命と伊邪那美命です。二柱は、すでに整えられた神々の世界を引き継ぐ存在として描かれ、天津神の命によって国づくりを任されます。天之沼矛で海をかき混ぜ、最初の島である淤能碁呂島が生まれる場面は、秩序ある世界が現実の形を取り始める象徴的な出来事と読むことができます。
このように上津文は、単なる神々の名前の列挙ではなく、
「世界はいかにして無秩序な状態から、意味と形を持つ場所へと変わっていったのか」
という問いを、神話的な表現で語ろうとしている文献だと受け取ることもできそうです。
(2)平易訳
天地(てんち)が始(はじ)まったとき、
高天之原(たかまのはら)に最初(さいしょ)に現(あらわ)れた神(かみ)は、
天之御中主(あめのみなかぬし)の命(みこと)である。
次(つぎ)に、
高御産巣日(たかみむすひ)の命(みこと)、
次(つぎ)に、
神御産巣日(かむみむすひ)の命(みこと)が現(あらわ)れた。
高千穂書(たかちほしょ)では、
天之御中主(あめのみなかぬし)の命(みこと)の後(のち)に、
薦枕高木(こもまくらたかき)の命(みこと)、
神御魂御祖(かむみたまみおや)の命(みこと)、
神漏岐(かむろぎ)の命(みこと)、
神漏美(かむろみ)の命(みこと)が
現(あらわ)れたと記(しる)されている。
国(くに)がまだ幼(おさな)く、
脂(あぶら)のように浮(う)き、
水面(みなも)の月(つき)のように漂(ただよ)っていたころ、
葦(あし)の芽(め)のように萌(も)え上(あ)がるものから
神(かみ)が生(う)まれたが、
その名(な)は不明(ふめい)である。
その後(のち)、
宇麻志阿斯訶備比古遅(うましあしかびひこぢ)の命(みこと)が現(あらわ)れ、
続(つづ)いて
天之底立(あめのそこたち)の命(みこと)、
国之底立(くにのそこたち)の命(みこと)が
現(あらわ)れた。
さらに、
天之常立(あめのとこたち)の命(みこと)、
天之退立(あめのよたち)の命(みこと)、
国之常立(くにのとこたち)の命(みこと)、
国之退立(くにのよたち)の命(みこと)が
現(あらわ)れた。
次(つぎ)に、
豊雲野(とよくもの)の命(みこと)、
豊国主(とよくにぬし)の命(みこと)、
豊香節野(とよかふしの)の命(みこと)、
浮経野(うきふの)の命(みこと)、
葉木国野(はきくにの)の命(みこと)が
現(あらわ)れた。
続(つづ)いて、
宇比地邇(うひぢに)の命(みこと)と
須比智邇(すひぢに)の命(みこと)、
角杙(つのぐい)の命(みこと)と
活杙(いくぐい)の命(みこと)、
意富斗能地(おほとのぢ)の命(みこと)と
大斗乃弁(おほとのべ)の命(みこと)、
淤母陀琉(おもだる)の命(みこと)と
阿夜訶志古泥(あやかしこね)の命(みこと)が
現(あらわ)れた。
さらに、
大戸道(おほとぢ)の命(みこと)と
大戸辺(おほとべ)の命(みこと)、
青橿城根(あをかしきね)の命(みこと)と
吾忌橿城根(あがいかしきね)の命(みこと)が
現(あらわ)れた。
その後(のち)、
天之鏡(あめのかがみ)の命(みこと)、
天之萬(あめのよろづ)の命(みこと)、
沫那芸(あわなぎ)の命(みこと)と
沫那美(あわなみ)の命(みこと)が現(あらわ)れ、
最後(さいご)に、
伊邪那岐(いざなぎ)の命(みこと)と
伊邪那美(いざなみ)の命(みこと)が
現(あらわ)れた。
ここで天津神(あまつかみ)たちは、
伊邪那岐(いざなぎ)の命(みこと)と
伊邪那美(いざなみ)の命(みこと)の
二柱(ふたはしら)に、
漂(ただよ)っている国(くに)を
造(つく)り固(かた)めるよう命(めい)じ、
天之沼矛(あめのぬぼこ)を
授(さず)けた。
二柱(ふたはしら)の神(かみ)は、
天之浮橋(あめのうきはし)に立(た)ち、
その矛(ほこ)を下(した)に差(さ)し入(い)れて
かき回(まわ)した。
引(ひ)き上(あ)げると、
矛(ほこ)の先(さき)から
滴(したた)り落(お)ちた塩(しお)が固(かた)まり、
島(しま)となった。
この島(しま)を、
淤能碁呂島(おのごろしま)という。
(3)逐意訳(現代語訳)
天地(てんち)の初(はじ)め、
高天之原(たかまのはら)に成(な)りたまえる神(かみ)の御名(みな)は、
天之御中主(あめのみなかぬし)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
高御産巣日(たかみむすひ)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
神御産巣日(かむみむすひ)の命(みこと)。
高千穂書(たかちほしょ)に言(い)らく、
天之御中主(あめのみなかぬし)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
薦枕高木(こもまくらたかき)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
神御魂御祖(かむみたまみおや)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
神漏岐(かむろぎ)の命(みこと)、
神漏美(かむろみ)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
国(くに)が幼(いと)く、
浮(う)く脂(あぶら)の如(ごと)くにして、
水月(すいげつ)の如(ごと)く漂(ただよ)える時(とき)、
葦牙(あしかび)の如(ごと)く萌(も)え騰(あ)がる物(もの)に因(よ)りて
成(な)りませる神(かみ)の御名(みな)は
不明(ふめい)。
宇麻志阿斯訶備比古遅(うましあしかびひこぢ)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
天之底立(あめのそこたち)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
国之底立(くにのそこたち)の命(みこと)。
また、
天之常立(あめのとこたち)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
天之退立(あめのよたち)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
国之常立(くにのとこたち)の命(みこと)。
国之退立(くにのよたち)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
豊雲野(とよくもの)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
豊国主(とよくにぬし)の命(みこと)。
豊香節野(とよかふしの)の命(みこと)。
浮経野(うきふの)の命(みこと)。
葉木国野(はきくにの)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
宇比地邇(うひぢに)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
妹(いも)須比智邇(すひぢに)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
角杙(つのぐい)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
妹(いも)活杙(いくぐい)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
意富斗能地(おほとのぢ)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
妹(いも)大斗乃弁(おほとのべ)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
淤母陀琉(おもだる)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
妹(いも)阿夜訶志古泥(あやかしこね)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
大戸道(おほとぢ)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
妹(いも)大戸辺(おほとべ)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
青橿城根(あをかしきね)の命(みこと)。
吾忌橿城根(あがいかしきね)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
天之鏡(あめのかがみ)の命(みこと)。
天之萬(あめのよろづ)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
沫那芸(あわなぎ)の命(みこと)。
沫那美(あわなみ)の命(みこと)。
次(つぎ)に、
高天豊道明千国根子大霊神
(たかあまのとよみちあけちくにねこおほみたまのかみ)
伊邪那岐(いざなぎ)の命(みこと)。
眞燿幻千国根子厳之神立神
(まかひろあらはれちくにねこいつのかみたちのかみ)
伊邪那美(いざなみ)の命(みこと)。
ここに、
天津神(あまつかみ)諸々(もろもろ)の
詔(みことのり)を以(も)って、
伊邪那岐(いざなぎ)の命(みこと)、
伊邪那美(いざなみ)の命(みこと)、
二柱(ふたはしら)の神(かみ)に、
これの漂(ただよ)える国(くに)を
造(つく)り固(かた)めよと詔(の)り、
天之沼矛(あめのぬぼこ)を賜(たま)い、
言依(ことよ)さしたまいき。
故(ゆゑ)に、
二柱(ふたはしら)の神(かみ)、
天之浮橋(あめのうきはし)に立(た)たして、
その沼矛(ぬぼこ)を指(さ)し下(お)ろして
画(か)きたまえば、
塩(しほ)こおろこおろに画(か)きなして、
引(ひ)き上(あ)げたまう時(とき)、
その矛(ほこ)の刃上(はのうへ)より
垂(た)り落(お)ちたる塩(しほ)、
凝(こ)り積(つ)もりて島(しま)と成(な)る。
これを、
淤能碁呂島(おのごろしま)と
言(い)う。
(4)原文(解読文)
上津文一(うえつふみその一)の綴り(つづり)【※1】
【天地(あめつち)の初(はじめ)の時(とき)【※2】・【※3】
高天之原(たかまのはら)に成りませる神(かみ)の御名(みな)は
天之御中主(あめのみなかぬし)の命(みこと)【※7】
次(つぎ)に高御産巣日(たかみむすひ)の命(みこと)
次(つぎ)に神御産巣日(かみむすひ)の命(みこと)【※4】】
高千穂書(たかちほぶみ)【※5】に言(いわ)らく【※6】、
【天之御中主(あめのみなかぬし)の命(みこと)【※7】
次(つぎ)に薦枕高木(こもまくらたかぎ)の命(みこと)【※8】
次(つぎ)に神御魂御祖(かみみたまみおや)の命(みこと)
次(つぎ)に神漏岐(かむろぎ)の命(みこと)
神漏美(かむろみ)の命(みこと)】
【次(つぎ)に国(くに)稚(わか)く浮脂(うきあぶら)の如(ごと)くにして
水月(くらげ)の如(な)す漂(ただよ)える時(とき)に
葦牙(あしかび)の如(ごと)萌騰(もえあが)る物(もの)に因(よ)りて
成りませる神(かみ)の御名(みな)は【※9】】
【宇麻志阿斯訶備比古遅(うましあしかびひこぢ)の命(みこと)【※10】
次(つぎ)に天之底立(あめのそこたち)の命(みこと)
次(つぎ)に国之底立(くにのそこたち)の命(みこと)
また天之常立(あめのとこたち)の命(みこと)
次(つぎ)に天之退立(あめのそぎたち)の命(みこと)【※11】
次(つぎ)に国之常立(くにのとこたち)の命(みこと)
国之退立(くにのしりたち)の命(みこと)
次(つぎ)に豊雲野(とよくもの)の命(みこと)
次(つぎ)に豊国主(とよくにぬし)の命(みこと)
豊香節野(とよかぶの)の命(みこと)
浮経野(うかふの)の命(みこと)
葉木国野(はきくにの)の命(みこと)】
次(つぎ)に
【宇比地邇(うひぢに)の命(みこと)
次(つぎ)に妹須比智邇(いもすひちに)の命(みこと)
次(つぎ)に角杙(つのぐい)の命(みこと)
次(つぎ)に妹活杙(いもいくぐい)の命(みこと)
次(つぎ)に意富斗能地(おおとのぢ)の命(みこと)
次(つぎ)に妹大斗乃弁(いもおおとのべ)の命(みこと)
次(つぎ)に淤母陀琉(おもだる)の命(みこと)
次(つぎ)に妹阿夜訶志古泥(いもあやかしこね)の命(みこと)】【※12】
次(つぎ)に
【大戸道(おおとのぢ)の命(みこと)
次(つぎ)に妹大戸辺(いもおおとのべ)の命(みこと)
次(つぎ)に青橿城根(あおかしきね)の命(みこと)
吾忌橿城根(あがゆかしきね)の命(みこと)】【※13】
次(つぎ)に
【天之鏡(あめのかがみ)の命(みこと)
天之萬(あめのよろず)の命(みこと)
次(つぎ)に沫那芸(あわなぎ)の命(みこと)
沫那美(あわなみ)の命(みこと)
次(つぎ)に
[高天豊道明千国根子大霊神
伊邪那岐(いざなぎ)の命(みこと)]【※14】・【※15】・【※17】・【※18】
眞燿幻千国根子厳之神立神
伊邪那美(いざなみ)の命(みこと)【※14】・【※16】・【※19】】
【ここに天津神(あまつかみ)諸々(もろもろ)の詔(みことのり)以(も)て【※20】
伊邪那岐(いざなぎ)の命(みこと)
伊邪那美(いざなみ)の命(みこと)二柱(ふたはしら)の神(かみ)に
これの漂(ただよ)える国(くに)を造(つく)り固(かた)めなと詔(の)ち
天之沼矛(あめのぬぼこ)を賜(たま)い
言依(ことよさ)したまいき
故(かれ)二柱(ふたはしら)の神(かみ)
天之浮橋(あめのうきはし)に立(た)たして
その沼矛(ぬぼこ)を指(さ)し下(お)ろして画(か)きたまえば
塩(しお)こをろこをろに画(か)きなして【※21】
引(ひ)き上(あ)げたまう時(とき)に
その矛(ほこ)の刃(はがみ)【※22】の上(うえ)より
垂(したた)り落(お)い【※23】の塩凝(しおこ)り
積(つ)もりて島(しま)と成(な)る
これを淤能碁呂島(おのごろじま)と言(い)う】【※24】
(5)語句注釈
※1うゑつふみ:
うゑつふみ
本文中のこの書名表題は「上津文(うゑつふみ)」と書くが、一般の書名記述としては「上紀(じょうき)」とする。
普通語彙「上記(じょうき)」との紛らいを避けるためである。
※2あめつちのはじめのとき→かむみむすびのみこと:
あめつちのはじめのとき→かむみむすびのみこと
古事記本文冒頭の記事に対応し、訂正古訓古事記(ていせいこくんこじき)および古事記伝(こじきでん)の宣長訓(のりながくん)(以後、訂正古訓古事記と古事記伝の訓を宣長訓と称する)が、「みこと」(命)を「かみ」(神)とする点を除いて双方の訓は一致している。
これに対して平田篤胤(ひらたあつたね)著古史成文(こしせいぶん)は、「いにしへあめつちいまだならざりしときあまつみそらになりませるかみのみなは」が導入部で古事記、上紀とは一致しない。
※3はじめのとき:
はじめのとき
古事記は「初発之時」と書く。
諸本集成古事記(しょほんしゅうせいこじき)に集められている12種の訓の内、道果本(どうかぼん)、伊勢本(いせぼん)、伊勢一本(いせいっぽん)が「はじめてひらけしとき」、鈴鹿本(すずかぼん)、前田本(まえだぼん)、曼珠院本(まんじゅいんぼん)、猪熊本(いのくまぼん)が「ひらくるとき」、寛永本(かんえいぼん)、延佳本(えんかぼん)、校訂古事記(こうていこじき)が「はじめてひらくるとき」で異訓。
賀茂真淵(かものまぶち)書入本古事記(かきいれぼんこじき)及び真淵仮名書古事記(まぶちかながきこじき)が「はしめてひらくるとき」とし、荷田春満(にだはるみつ)書入古事記が「はしめてわかれしとき」とする。
これらに対し宣長訓だけが「はじめのとき」で上紀と一致。
※4かむみむすび:
かむみむすび
古事記は「神産巣日」と書き、宣長訓の「かみむすび」を除いて諸本の訓は「かむみむすび」または「かんみむすび」。
日本書紀(にほんしょき)1書4(訳者は日本書紀1書に通番を付す)は「神皇産靈」と書いて「かむ(ん)みむすひ」と訓み、特に、「皇産靈(みむすび)。此(これ)をば美武須毘(みむすび)と云(い)ふ」と注釈している。
「皇」を「み」と訓むのである。
※5たかちほふみ:
たかちほふみ
「上つ記(うえつき)はしかき」に、上紀編纂(じょうきへんさん)の底本の1つとなったと書かれる「高千穂(たかちほ)の大みやつかさの伝書」、「同くにぬし元雄(もとお)の伝書」のことであろうか。
※6いえらく:
いえらく
「いウ」(言)は本来、「ウ」が語根。
「とふ」は「と」+「ふ」(上紀仮名ウ)。
万葉集(まんようしゅう)「ちふ」(5巻 知布)、江戸時代の豊後(ぶんご)の国学者が用いた「ちう」、篤胤(あつたね)が記述の中で用いる「てふ」はこれに同じ。
「い」は発語の接頭語で「いゆき」(往)等の「い」に同じ。
したがって「いイ」の「イ」、「いウ」の「ウ」、「いえらく」の「え(エ)」は語根「ウ」(言)の活用形と解釈し、本訳では、いウいイいエ(え)を等しく「言」のルビとする。
因に鹿持雅澄(かもちまさずみ)の古言譯通(こげんやくつう)では「云」の一字を「いふ」とも「いひ」とも「いへ」とも訓んでいる。
※7あめのみなかぬしのみこと→かむろみのみこと:
あめのみなかぬしのみこと→かむろみのみこと
この箇所は古事記に無い。
導入部の章句は異なるが古史成文(こしせいぶん)は以下の通りでかなり上紀に重なる。
「天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ) 次(つぎに)高皇産靈神(たかみむすびのかみ) 亦名(またのみなは)高木神(たかきのかみ) 亦云(またこもまくらといふ)薦枕高皇靈神(こもまくらたかみむすびのかみ) 此者所謂(こはいはゆる)神魯岐命(かむろぎのみこと)也(なり) 次(つぎに)神皇産靈神(かむみむすびのかみ) 亦云(またといふ)神産巣日御祖命(かみむすびのみおやのみこと) 亦云(またといふ)神魂大刀自神(かみむすびおほとじのかみ) 此者所謂(こはいはゆる)神魯美命(かむろみのみこと)也(なり)」
※8こもまくらたか:
こもまくらたかぎ
三代実録(さんだいじつろく)に薦枕高木(こもまくらたかき)、旧事紀(くじき)神代系紀(じんだいけいき)に高木命(たかきのみこと)とある。
古史徴(こしちょう)(平田篤胤(ひらたあつたね)著(ちょ))に「高木神(たかきのかみ)と申す御名(みな)は、元書(もとつふみ=篤胤(あつたね)が底本(ていほん)として用いた古事記(こじき))の末に『高木神者(たかきのかみは)高御産巣日神(たかみむすびのかみ)之(の)別名と見え』とあり、篤胤(あつたね)が用いた古事記にこの注書があったことが分かる。」
※9つぎにくにわかくうきあぶらのごとくにして→なりませるかみのみなハ:
つぎにくにわかくうきあぶらのごとくにして→なりませるかみのみなハ
宣長訓に重なるが古史成文(こしせいぶん)には無い。
※10うましあしかびひこぢ→はこくにぬのみこと:
うましあしかびひこぢ→はこくにぬのみこと
ここに見える一連の神格系譜の体系は他に見えないが、部分的、局部的には日本書紀(にほんしょき)、古事記(こじき)、旧事記(くじき)に上がる。
これに対して古史成文(こしせいぶん)2段3段は以下のように記述している。
「宇麻志阿志訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ) 次(つぎに)天之底立神(あめのそこたちのかみ) 亦云(またといふ)天之常立神(あめのとこたちのかみ) 亦云(またといふ)天之壁立命(あめのそきたちのみこと) 亦名(またのみなは)天角凝魂命(あめのつぬこりたまのみこと) 亦云(またといふ)天之角己利命(あめのつぬこりのみこと) 亦云(またといふ)角魂神(つぬたまのかみ)(中略) 国之底立神(くにのそこたちのかみ) 亦云(またといふ)国之常立神(くにのとこたちのかみ) 次(つぎに)豊勘渟神(とよくむぬのかみ) 亦云(またといふ)豊雲野神(とよくもぬのかみ) 亦云(またといふ)豊組野神(とよくみぬのかみ) 亦云(またといふ)見野神(みぬのかみ) 亦云(またといふ)豊喫野神(とよくひぬのかみ) 亦云(またといふ)豊国主神(とよくにぬしのかみ) 亦云(またといふ)豊国野神(とよくにぬのかみ) 亦(また)葉木国野神(はこくにぬのかみ) 亦云(またといふ)浮経野豊買神(うきふぬとよかひのかみ) 亦云(またといふ)豊香節野神(とよかぶしのかみ)」
この部分は全体の流れとして上紀に重なるものである。
平田篤胤(ひらたあつたね)はこの部分の記事を成文するに当たって、「古事記また日本書紀の伝々を、合せ考へて記せる」と古史徴(こしちょう)(2段)に書いている。
※11あめのそぎたち:
あめのそぎたち
祝詞祈年祭(のりときねんさい)に「天能壁立極国能退立限(あめのかべたつきはみくにのそきたつかぎり)」とあるが「壁立(かべたち)」は「退立(そきたち)」と同義(どうぎ)で「避立(そきたち)」が本来(ほんらい)の漢字(かんじ)であろう。
「そぎたつ」が正訓。
古史成文(こしせいぶん)は「そきたち」と訓む。
※12うイぢにのみことつぎにいもすイぢにのみこと→いもあやかしこねのみこと:
うイぢにのみことつぎにいもすイぢにのみこと→いもあやかしこねのみこと
この箇所は古事記が「みこと」(命)を「かみ」(神)とする点を除いて古事記古史成文(こじきこしせいぶん)と同文。
古史徴(こしちょう)がこの段は全て古事記を採って書いたが部分的に日本書紀を引いたと述べていることに通じるものである。
※13おおとぢのみことつぎにいもおおとべのみこと→あゆかしきねのみこと:
おおとぢのみことつぎにいもおおとべのみこと→あゆかしきねのみこと
日本書紀(にほんしょき)1書6と類似。
この内「あゆかしきね」は1書6の「忌橿城(いむかしき)」に同じ。
古事記伝(こじきでん)は類聚国史(るいじゅうこくし)に拠って「吾」を補い「吾忌橿城(あがいむかしき)」として上紀に同じ。
また古史成文(こしせいぶん)4段末尾に重なる。
※14あまのかかみのみこと→まかかぼろしちくぬねこいづのかむたてかむいざなみのみこと:
あまのかかみのみこと→まかかぼろしちくぬねこいづのかむたてかむいざなみのみこと
ここに見える系譜は日本書紀(にほんしょき)1書8に基本的に同じ。
又、天鑑尊(あまのかがみのみこと)から伊奘諾(いざなぎ)に到る宋史日本国伝(そうしにほんこくでん)の記事にも一致。
古史成文(こしせいぶん)に対応記事は無い。
※15たかまとよちあかしちぬねこおおちかむいざなぎのみこと:
たかまとよちあかしちぬねこおおちかむいざなぎのみこと
※16まかかぼろしちくぬねこいづのかむたてかむいざなみのみこと:
まかかぼろしちくぬねこいづのかむたてかむいざなみのみこと
いざなぎいざなみの修辞的雅称。
他には見えない。
漢字の当て字は訳者の発想になるもの。
※17とよち:
とよち
豊道(とよち)を当てる。
後出の「とよちがはら」の項を参照のこと。
※18ちぬねこ
ちぬねこ
すぐ後のイザナミの雅称「ちくぬねこ」に同じ。
※19まかかぼろし:
まかかぼろし
「ほろし」は「ほれ」(惚れ恍れ)と同根。
心が朦朧(もうろう)となること。
正常な意識を失い放心状態になること。
化けること。
転じてそうした客体。
「まかか」は「眞(まこと)」+「燿(かがよ)」。
「眞(まこと)」だけ残(のこ)って転(てん)じて「幻(まぼろし)」となったか。
契冲(けいちゅう)倭名抄訓(わみょうしょうくん)は瘡類第四十一で「風隠軫(かさほろし)」に「幻(まぼろし/末保呂之)、幻術(げんじゅつ)之(の)力(ちから)暫(しばら)く現(あら)れ速(すみ)やかに滅(ほろ)ぶ」の書き入れをし、ほろしがまぼろしの語につながるとの認識を示している。
石川県方言で「にんげんぼろし」は人影影法師のことである。
※20ここにあまつかみもろもろのみこともて→をみなのことさきだちてふさわずとのりたまイき:
ここにあまつかみもろもろのみこともて→をみなのことさきだちてふさわずとのりたまイき
イザナギイザナミの国生み、神生みの物語の導入部。
対応文節、対応語句、対応語彙は古事記宣長訓(こじきのりながくん)及び古史成文(こしせいぶん)56段と重なり殆ど一致している。
※21こウろこウろに:
こウろこウろに
古事記は「許袁呂許袁呂邇(こをろこをろに)」と
書いて仮名音の若干の相違を示す。
※22はがみ:
はがみ
古事記は「末」と書き、寛永本(かんえいぼん)は「すへ」、真淵(まぶち)は「すゑ」、宣長訓(のりながくん)、古史成文(こしせいぶん)、校訂古事記(こうていこじき)は「さき」。
日本書紀(にほんしょき)の対応語は「鋒」と書いて「さき」と訓む。
※23したたりおイ:
したたりおイ
「したたりおつ」が正しい。
※24いウ:
いウ
「い」は発語。
語根は「ウ」(言)。
この語の活用語根には言の字を当て、先の「いえらく」の「いえ」の例に従う。

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