post155:箱根のマルチメディア会議
箱根のマルチメディア会議
しかし、さすが、情報化最先端を行く企業だけあって、「できれば講演はマルチメディアを使って…」などという。つまり、パソコンでつくった絵や動画をちょっとしたスライドショーのような方式で講演をしてほしいということで、話しの経緯上、その機械の操作要員に私は雇われて、七月三十一日、県庁情報化推進室山田朝雄室長とともども知事の到着の数時間前に箱根プリンスホテルに乗り込んだ。
芦ノ湖に面したプリンスホテルは、夏の真っ盛でお祭りもあってたいへんな観光客だが、ホテルは完全にこの会議関係者で占められているらしい。集まっているそれぞれのトップの人達は、私達同様のスタッフを何人か必ず引き連れているように見える。
よく知っている名前だけでも任天堂、ローランド、電通、ビクター、セガ、三菱、東芝、富士通、ソニー、日本経済新聞社、讀賣新聞社、日本電気、コクヨ、NTT、松下電器、日本モトローラ、三菱商事、シャープ、NHK…。その他にも公文先生や会津さん、ハイパーネットワーク社会研究所設立で大分と縁を持つ朝日新聞の服部桂さんもいる。ワープロソフト「一太郎」で有名な徳島のジャストシステム浮川社長もいるし、NECのベストセラーパソコンPC9801を生み育てた高山田支配人もいる。どうやら主催者側は、会議の副産物として企業間のビジネス的結びつきをも期待しているようだ。そのためか、報道陣はいっさいシャットアウト。あとで記者会見で対応するという。〝決定権を持つ人達〟という参加資格の意味合いもわかってきた。聞くところによると、日本のさまざまな人達が会議に出席させてくれ、と盛んにアプローチあったけれど、一生懸命主催者側で交通整理に励んだらしい。別府湾会議にきたアメリカ未来工学研究所のロバート・ジョハンセンさん、EFF(Electronic Frontier Foundation)のジョン・バーローさん、韓国標準院のキョン・ヒー・ユー院長さんの顔も見える。
知事は夜のディナーパーティ直前に到着。この三日間、暑い東京で霞ヶ関を陳情に秒刻みで走り回ってたとのことで、今日箱根に泊まれば大分を離れて三泊四日になるそうで、秘書の奥塚さんもへばりぎみ。にもかかわらず、知事はニコニコで、会議参加者がお揃いのTシャツを着ているのを見て「オレにもあるのかい?」と茶目っ気を出してきた。
避暑地らしくそのTシャツでラフな格好になってディナーに出席。なにしろ政治家は彼一人っきりだし、過去の個人的実績からいっても文句無く主賓。スカリー氏と二人で一番上座に座ってさっそく楽しげに話し始めていた。あとでどんな話しがあったのですか?って聞いたら、
「いやー、おもしろかったよ。『アメリカで大分のように情報化に一所懸命の所はどこか?』って聞いたら、『アーカンソー州だ』っていうんだよな。例の大統領候補のクリントンのところだよ。『クリントンも副大統領候補のゴア上院議員も情報化にとても熱心だし、いつでも紹介できる。ぜひともアメリカにきてくれ』っていうんだよ。こりゃホントに行かなきゃならんかねー」なんて笑いながらいう。そりゃ、知事行ったほうがよいですよ、ゴア上院議員はミスターサイエンスと呼ばれるぐらいで、副大統領候補の指名なんて話がなかった時でさえ、別府湾会議で呼べるものなら呼んでみたい、と話してたほどなのだけど。
さて、一夜明けて早起きの私は、同室の山田室長を起こさぬよう芦ノ湖を散歩。海岸と湖岸の違いがあるものの、日出の厚生年金休暇センターで行った別府湾会議を思い起こさせる。彼らは、この種の会議は世界ではじめてだっていうけれど、別府湾会議はもっと広範囲にさまざまな分野から集まってるし、その意義においてはすでに二回行ってるということで負けてないなぁ、なんて思ったりしながらの散策。
今日は知事の講演から始まるのだが、その直後にアラン・ケイ氏が講演することもあって、会場には彼が早くからきてマルチメディアの準備を進めている。彼のその準備が終らないとその操作席に私が座れないので、その横に座って彼の操作を見てるが、私の目を見てニッと笑いながら焦ってやってる。とうとう彼の準備が終らないために開会時間がずれ込んでしまった。どうやら誰もがアラン・ケイ氏には何もいえないらしい。スカリー氏も人一倍気を使ってるようだった。
いよいよ知事の講演。紹介されて壇上に立った知事は、大分県の現状、東京一極集中のこと、それを撃ち破るべく一村一品運動やテクノポリス構想を推し進めたこと。さらには情報化をそのために推進し、キャプテンやコアラ、豊の国ネットの必然性、その結果として起こったインター・リージョナルなコミュニケーションのこと、未来型の社会インフラとしてのマルチメディア電子ネットワークをハイパーネットワークと名づけ、大分につくりあげたいと思っていること、それが大分を楽しく東京に負けないすばらしい地域に導いてくれるだろうこと、などを熱気を持って話していく。
時にはユーモアを交えて話す知事の講演は、笑いと拍手が交錯し、出席者によると講演の中で一番拍手が多かったということのようだった。公文教授も「お世辞抜きでよかったよ」っていったし、何よりも例のサティーブさんが、終ったあと、私のところに走り寄ってきて「パーフェクト!パーフェクト!」(これは日本語に近い!)っていってきた。さもあらん、彼は、この会議が成功するかどうかの責任者だし、知事の話で成功かどうかのすべてが決まると思い詰めてたようだった。大分をあとにしてからも、「知事のスピーチの内容はどうなりそうか?」と人づてに何度か心配そうに問い合わせてきていたほどだったから。
とくに、知事がGNP(生産重視)志向よりもGNS(Gross National Satisfaction/住民の満足感)を高める地域づくりを力説した場面では、日本では宮沢さんの「生活大国」の話もあってか、海外の人からは大きく評価されたようで、なるほどとうなずくざわめきがあったが、何と、スカリー氏はさっそくこの考え方に反応した。
午前中の終わりに、スカリー氏が二日間に亘った全セッションのまとめを行いながら、いくつかの提言を発表したのだが、その中に、
「〝GNS社会〟を実現するために〝ハイパーネットワーク社会〟が必要である。大分だけでなく、アメリカ、ヨーロッパにも応用ができることが重要であって、いろんな取り組みをやってみようじゃないか」
と一項目増やしてまとめてる。
出席者はさもあらん、とうなずいてるが、大分人としてはうれしいですねぇ。どうやら事前にスカリーは発表内容を決めていたようだが、知事の講演のあとですかさず発表内容を書き直したようだった。
ハイパーネットワークという言葉はコアラの電子会議の中から生まれ、日本国内でも徐々にあちらこちらで使われ始めていたのだが、ついには、「GNS社会を実現するためのハイパーネットワーク」という概念を伴って世界的超一流人の口から出るようになったのだからすごい。記者会見でもスカリー氏は同じように発表したので、翌日の新聞にはその言葉がしっかりと書かれてあった。
あとから聞いた話だが、ハーバード大学のある教授はアメリカに帰ったのち、大分県庁知事あてに手紙を送ってきて、
「あなたの発表はとてもすばらしかったし、私は大分の情報化にとっても興味を感じる。ついては、大分の情報化の進み具合を時折教えてくれないだろうか。当方からも研究の結果などを送るから」
ということで、山田室長はうれしいのだが頭を抱えていた。
予震はまだ続く。午前中の行事が一時間遅れで終って、またもやサティーブさんがやってきて、「知事は最後までいてくださるだろうか?」と心配そうに聞く。なぜ?って聞くと、二時半頃から記者会見を行うのだがその冒頭に「アワードを行いたい」という。つまり何人かを表彰したい、その中に平松知事もいれたいのだが、本人がおられるとありがたいのだが、ということのよう。知事に聞いたら、大分で県議のご不幸事が起こり大至急帰りたい、ついては「大分人で残るのはキミだけなんだから、キミが替りに受け取っててくれよ」
「えっー」
ということで、知事の代理で壇上に上がりスカリーと握手して受け取った〝箱根インパクト賞〟と記された賞はずっしりと重たいものだった。
賞の主旨はニューメディア産業の振興および発展に寄与した個人並びに企業に贈るもので、企業三社(ソニー、The Voyager Company、富士通)と個人三者(平松知事、Mr.Mac Whitby/BBc放送のプロデューサー、Mr.Moses Znaimer/カナダシティテレビ代表取締役社長)が受賞者だった。その受章理由は、
「多くの人が、種々のビジョンをこのような新規事業、新規産業に対して持つことができますが、アクションを起こしてそのビジョンを実現する方は非常に少ないと思います。平松知事は、大分県という地方自治の活性化に努め、『一村一品運動』をはじめとした村おこしのみならず、ニューメディア技術の活用を図る環境を整えられ、これをもって『豊の国』づくりに多大な貢献をされました。この偉業に敬意を表し、賞を授与するものです」
とある。ジャストの浮川社長やNECの高山支配人、富士通の桑原常務理事、公文先生も「よかったですねー」といってくれるし、キャノンの御手洗肇専務も「親父のふるさとが頑張っててよかったよ」って感想をいわれたり。知事だけでなく周りの私達まで評価されたみたいでこそばゆい。
その熱気が冷めないまま、エクスカーションにバスを連ねて箱根彫刻の森美術館に行った。屋内・野外に多くの作品が大規模に展示されているのだが、通常の美術品に交じって、アップルのパソコンを使ったマルチメディア作品が特別展示されてあり、世の中がどんどん進んで行っていることを実感させるような作品ばかり。こういったマルチメディア・アートやデジタル・カルチャー・フェスティバルを別府湾が望める景観豊かなところで開催できるようになると大分も本当に新文化の発信地になるのだろうが。
ほぼひと月後、県庁にサティーブさんから手紙と感謝の意を込めた楯が送られてきた。その手紙の内容は以下のとおり。
拝啓 平松知事閣下 『箱根フォーラム』があのような大成功をおさめるにあたって知事閣下に頂いたご貢献に感謝申し上げる意味で、ささやかな品を同封させて頂きます。 知事閣下のなさったスピーチはまさに的を得たものでありました。知事閣下がお持ちの見識、洞察あふれるご参加のおかげで討論が全体として盛り上り、フォーラムの方向性が高められたことは疑いのないことであります。 フォーラムへの反響がすでにお手元に届いているかと存じますが、私としましては好ましい反響に驚き喜んでいる次第であります。ただ今当方で最後の報告書作成を進めておりますが、三週間後には公にできるものと存じます。 フォーラム組織委員会を代表いたしまして、心より厚く御礼申し上げます。 敬具 サティーブS.シャヒル |

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