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メルトダウン寸前!

 

 三月の終わり、無事にハイパーネットワーク社会研究所調査委員会報告書がまとめられ「研究所は設置するに値するし、設置場所は大分がふさわしい」と答申した。

 その頃、大手ネットのNIFTY-ServeやPC-VANは会員数が二十万人を突破したし、会員構成がマニアから一般人に広がった、とよくいわれるようになった。ホスト局も全国で一千局近くになったというし、大分県内は六局 がBBSリストにして紹介されていた。それだけ普及してきたということであるが、ユーザーにとって選択の幅ができたし、本当に自分にとっておもしろいところ、魅力のあるところに移動できることになる。

 コアラは運営論が厳しく問われ、ハタから見ても決して楽しいものではない。できれば入会を避けたい気分に誰しもなるし、そうでなくても大手ネットの矢継ぎ早の新サービス提供は魅力的で、現会員さえアクセスがおもしろくなくなる。したがってアクセス回数が全体的に少しづつ落ちてきたが、相変わらずメールや運営会議室ではキビシイ話が続く。さすがの私もきつかった。コアラ運営のためにはコアラにアクセスしなければならない。が、アクセスすれば必ずメールがきている。いやでいやでたまらなかった。しかし、やらねばならない。ネアカはどこに行ったのか、と自分自身にムチを打つ。励ましのメールや声をかけてくれるメンバーは少なからずいるのだが、つらい。

 噂を聞くとアメリカでは誰でも自由に発言できるメリットが運営方法にも利用されて、かえって混乱を招いたり収集のない議論になり、どうしようもなくカオスの状態になる、メルトダウンするということがよくあるらしい。実名ネットのコアラだからそんなことはないだろう、と思っていた私が甘かった。 この頃のことはいま思い出しても胸が痛みこれ以上は書けない。もう数年経ったならば当時の展開をより冷静に受けとめ、私の行動を釈明ではなく、また、誰をも傷つけず説明できるだろうが。

 一年前、知事から研究所をつくるための検討を、と指示あって以降、私は県情報化推進室に研究所ができるためにはその研究材料のコアラが繁栄しなければ創設がうまくいかないだろう、コアラにとってはハイパーネットワーク研究所ができれば運営ノウハウの収集や新技術の導入もやりやすくなるだろうし、両方は両輪の輪であって両方同時に創設と発展を図ることが必要だ、とたびたび説明していた。具体的には大手ネットに比べて貧弱になったサービスを改善するためにCOARAー4をつくろうとお願いしていた。そして、九一年度(平成三年度)が始まって、そのことを検討し始めようとする矢先にコアラ事務局が情報センターから離れたがっているという噂が入ってきたことになる。

 県の新しい担当者である山戸康宏さんは私と大学が同窓で気が合うのだが、いかんせん、コアラ発足、発展の経緯をしらない。したがって、コアラ事務局が情報センターから離れようとしている動きがあることや、県内のあとからできた他のホスト局が「コアラだけ特別扱いにしている」という、これまた発足の経緯を知らないために出てくる苦情に苦慮して、COARA-4を県が公共ホストとして運営し、従来のコアラグループをCUGとして利用させる案を出してきた。つまりはアパートに事務局を移す噂は、コアラグループをマニアの団体、お遊びの団体というイメージに逆戻しにしてしまったようだった。

 またこの時期、情報センターでは、コアラやキャプテン、豊の国ネットのことなどを各運営者が集まって、大分の明日の情報ネットワークづくりの意見交換をする「地域総合ネットワーク研究会」がスタートした。ここでよい結論が得られればCOARA-4が実現しうる。そこで、私としてはコアラの運営が「情報市民公社」構想の中にあることを説明し始めるが、キャプテンのように第三セクター方式の株式会社でもなく、社団法人でもなさそうなコアラ運営体の理想像をどう説明するか、現状の社会システムには存在していない未来組織をどう説明するか、バックの不協和音を背にしては迫力がない。

 疲労感。

 担当が新しくなるたびにコアラの社会的位置づけが変わり、そのたびに時間をかけてコアラの意義を説明してきたこの数年間に疲れを感じたのかもしれない。

 それにしても市民のためのネットワークづくりを模索し、モデルとしての情報市民公社構想を掲げ、それに共感を得たからこそ今までのコアラ評価があったはずだ。それなのに、官営ネットになってしまってはハイパーネットワーク社会研究所が研究する材料がなくなってしまうし、今までのコアラの実績が無に帰してしまう。ハイパーネットワーク日出会議をやった大分県が、自らその会議の内容を否定してしまうことになりかねない。

 それだけではない。過去に官営ネットがいくつも立ち上がったし、見学にもきたが十中八、九は失敗していっている。熱心な職員がいて企画書をつくり、立ち上げに何とか成功するが、立ち上がったその頃に配置転換が行われて熱心な職員はその場を離れる。そして、発足の経緯を知らぬ人達がホストシステムは受け継いでも運営の精神までは受け継げず、ホストの電源は入っているが電子コミュニティが育たない官営ネットが全国にいっぱいある。また、官営は「住民のためにネットを整備する」という使わせる立場に終始してしまい、今までのコアラのように〝使う立場〟からのシステム構築・運営手法は出てこない。県は、全国のこれはというネットの調査に行くが、調査先のネットは何らかの形で立ち上げ時にコアラ調査や私との疎通を図って来たことを知らない。

 しかし、私の運営がコアラ内で問題になっているのだから、私は〝使う立場〟を代弁しているのだろうか?運営を問題にしているのはごく少数の人達だが、電子会議の性格上、非難の声が出て誰かが賛同すると、他の人達は反論を書きにくくなる。流れが一度決まるとその方向修正はなかなか難しい。つまりは、発言に対して最初にレスポンスをつける人が流れをつくる、といっても過言ではないが、そうなったらなったで素直に受け止めざるを得ない。

 もう私の役目は終わったかな、と思った。

 後藤会長に相談した。

 「そうだねぇ、県がホストを運営したいというなら、それもいいかもしれないねぇ。私も君もついに県が運営に乗り出すほどパソコン通信を大分で育て上げた、ということになるだろうし」

 という。言い得て妙だ。

 「それにキミもいつまでもコアラ運営をするわけにもいかんだろう。会社の経営に戻る時期だろうし、他にやりたい人がいるならば任せてあげればいいよ。よいチャンスだよ」

 という。それなりに肩の力を抜いた自然体である。さらに、

 「コアラが発足したニューメディア黎明期は、ニューメディア、イコール、利権という臭いがあったからね。それで利権や利益目的ではないことを示すつもりでアマチュアの名前を冠した任意団体にしてたし、カチッとした組織にしなかった。組織がカチッとしすぎるとパソコン通信という新しいメディアの特性がわからないのに、運営だけが先に硬直しかねない。また、他の団体から口を挟まれかねないだろうし、つかまえどころがないような、もやもやした団体だったから、他の介入を防げてここまで出来たんだろう」

 と感想をもらす。



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