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アンカーマンになってコアラ宣伝

 

 八七年三月、一ヶ月後に県知事選挙と県議会議員選挙が控えていた。平松知事は県民から圧倒的な支持を得ており当選間違いなし。県議会議員選挙のほうは、父の古くからの友人を応援するため、私は一月半ばから選挙事務所に詰めていた。

 投票日の二週間ほど前の三月下旬、県庁の広報公聴課の米田順子さんから電話がかかってきた。広報公聴課は、たびたび県の広報誌などでコアラを取り上げてもらっていて私としては大事な〟お客さん〟だ。

 「急ぎの用事があるので至急会いたい。選挙事務所の近くまで課長ともども出かけるので会ってほしい」

 という緊迫した口調に何事かと、近くの指定された喫茶店に急いだ。

 油布洋一課長が米田さんと一緒に待っていて、「実はお願い事がある。君を見込んでのお願いだ。県の広報テレビ番組のアンカーマンになってくれないか?」

 と、唐突な話。よくよく聞いてみると、毎週日曜日の朝十時から放送されている県がスポンサーの番組の総合司会をしてくれという。番組名は「サンデー大分」。

 急な話なので面食らってしまったが、四月からの放送なのでもう調整する時間もなく、引き受けてくれないと困るという。しかし、選挙応援の最中であるので、とにかく選挙が終わるまでは待ってもらうこのにした。

 四月一二日投票が終わった。支持していた県議は当選確定。

 そして、いきなりその週から番組が始まってしまった。

 全くの素人がいきなりスタジオに一人座って、一村一品で頑張る人達や、話題になっている県の部局の人を呼んで対

 まったくの素人がいきなりスタジオに一人座って、一村一品で頑張る人達や、話題になっている県の部局の人を呼んで対談し、大分県政をPRするものだ。ちょっと気後れするがコアラを売り込む絶好のチャンスである。

 「こんにちは、サンデー大分の尾野徹です」という出だしで始めるこの番組は、肩書きがコアラの事務局長であることを前面に、まる二年間続けられたが、コアラメンバーをコトある毎に出演させてもらった。

 たとえば、「チャレンジ一村一品」というコーナーがあって、視聴者が一村一品を作っている工場や農家に出向いてその作業を体験しつつ、そのおもしろさやよさを紹介する番組づくりが月に一、二度あった。参加視聴者としてよくコアラメンバーに登場してもらった。そして、彼らはその実体験をコアラの中に書いてくれている。コアラメンバー達はテレビで放映される表(おもて)の映像と、その裏側の感想をコアラの中で見るわけでなかなかにおもしろいし、コアラ内ではちょっとした話題提供にもなる。

 また、取材は通常のウィークデーに行われるが、その日の空いている人を捜すのが広報公聴課では難儀をしていた。それをコアラを通じて公募できたりと、それなりのメリットもあった。

 対談相手もさまざまなので、県庁の部長をはじめとする各部署の人々にそれなりにコアラのことをやんわりとPRできたし、平松知事も年一、二回出演してくれた。番組には

 県外のお客さんも多かった。作詞家の阿久悠さんや三菱商事会長の三村庸平会長、岩波ホールの高野悦子さん、もちろん公文俊平教授も。県のお客様と直にブラウン管上で話ができたのおおいに勉強になった。

 勉強になったというならば、県庁の教育委員会も含めて全部署の人達と会えること、また、広報としていろいろな題材を取り上げていくので、さまざまな分野の人に触れ合えたことだ。高齢化問題や福祉問題、農業や畜産業、林業、水産業と、日頃の本業とはほとんど関係のない分野であるが、各分野で一生懸命頑張っている人達だ。すばらしい県庁職員も随所にいる。

 私も負けられない、と思うことが多かった。情報化でやっぱり大分をおもしろくしよう、それも他人ごとでなく当事者として。

 しかし、毎週の出演はすごいハードスケジュールとなってしまった。事前の出演交渉や取材があるので、企画中、取材中、録画中と常に三つを同時並行していかないと毎週放送には追いつかない。とくに私はほとんどの分野で素人なので、テーマによっては個人的事前取材が必要になる。半日、ないし、一日かけてでも当地へ出かけて、私なりの視点を持たねば、台本どおりであってもおかしな番組になってしまうだろうし、画面では自分なりの言葉で話さねばならない。でなければアンカーマンにならないだろう。NHK「おはようジャーナル」の取材で、カメラ撮りには必要のないアナウンサーが同行した意味がよくわかる。

 ということで時間が足らない、風邪も引けない。

 加えて、例の全国大会が行われたりで、もう、ギリギリで行動することが多くなった。準備で奔走する間に録画撮りを行い、全国大会が終わってみんなと一緒に感動している午後には明日の録画撮りの台本を渡され、頭を切り替え、大慌てで本番に臨む。午前中の録画撮りが終了したら、午後からは車椅子マラソンに来大分されておられる人達を対象にした「障害者とパソコン通信シンポジウム」にパネラーとして出席する…。そんな日々が続いたために、毎朝早く起きてその日の締め切り分を用意する癖がついてしまった。私の早起きの原因はこの頃にあるのだろう。

 そういった状況に、さまざまなアドバイスをもらえるのもコアラメンバーのよいところ。NHK大分放送局の柴田アナウンサーと品田アナウンサー、TOSの友田元アナウンサーがそれとなくコツを教えてくれる。柴田さんは「尾野さん、必ず終わりの言葉を考えとくとよいよ」と、なるほど。

 そして、彼らプロが身につけている客観性について考えるようになってきた。

 キャスターとは和製英語だそうで、〝ブロードキャスター(放送者)〟の省略形であったが、アメリカでは〝アンカーマン〟、イギリスでは〝ニュースリーダー〟と呼ぶそうだ。

 イギリスの〝ニュースリーダー〟は、ファクト・イズ・ホリー、バット、コメント・イズ・フリー(事実は神聖だがコメントは自由だ)といった方針だが、アメリカは、ファクト・イズ・ザ・ベスト・コメント(事実は最良のコメント)だそうで、報道姿勢にその違いがいろいろと表われているそうだ。

 たとえば、イギリスは事実そのものを、なるべく非個性的に色付きでなく報道するが、アメリカのテレビは事実は無数にあり、それらの事実の中から放送する事実を選択すること自体が一つのコメントだ、と割り切っているという。なかなか難しいようだが、コアラ経験からその点はよくわかる。全国大会に限らず、いろいろなイベントでコアラメンバーはオンラインレポートを行ってきたが、レポーターの生活経験、興味対象の違いなどによって、同じ場面でもレポートの内容が微妙に異なり十人十色のものになってくる。その違いがおもしろいし、その違いを読み取り、読み手としての真実をつくり出すという経験に馴染んでいる。だから、一つのマスメディアだけではすべてを判断しないという訓練にもなっているが。

 パソコン通信はファクト・イズ・ザ・ベスト・コメント方式で書かれているが、読み手ははその特徴を熟知せずに無防備なまま、ファクト・イズ・ホリー的に受け取りがちな未熟性な状況であること、そういったリテラシー教育が十分に行き渡っていないと恐ろしく混乱してしまうことが、この時期にはまだわかっていなかったようだ。



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