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ネットワークで人生が変わる
いよいよ、オンライン会議が始まったが、冒頭から期待感いっぱいの熱気に包まれていた。
これらの電子会議は、「ネットワーク・コミュニティ/NET」「新しい地域コミュニティの理念/COMNET」の二つに分けて行われ、前者は川辺・清積両議長の司会で、自分とネットワークの関わりを身近な事例を通して話し合おうと呼びかけ、パソコン通信に比較的新しく加わった人達を含めて誰もが気軽に参加・発言ができるようにした。決して結論がでるようなものではないが、〝ネットワークで人生が変わった〟という共通認識が強く押し出されていたように思う。私達夫婦もそれに該当しただろう。
東京をはじめとする全国からの発言、また、海外からはジュネーブに転勤したKDDの上田さんや、海外会員第一号のオランダの栗村さん、栗村さんに紹介されてコアラに縁を持ち、夏には湯布院まで遊びにきたオランダ在住のジャーナリスト川端きみこさん達がメッセージを寄せてくれて、地方に居ながらグローバルな感覚をそれなりに受け取る毎日は、大分在住者に〝人生が変わった〟ことを実感させる電子会議であった。
さらには、コアラメンバーに〝ネットワークで人生が変わる!〟ことを知らしめた二つの婚約発表が行われたのもこの頃。
一組は品田公明さんと山田夕美さん。
品田さんは北海道出身でNHK大分放送局に勤務するアナウンサーだが、休暇で故郷へ帰ると両親からお見合などを勧められるものの、ほんの数日の休暇ではデートもそう繰り返せるわけでなく、どうやって〝詰め〟を行うか?、悩んでいたようだ。そういったおり、とても気に入った女性が現れたようで私のところにやってきたのが五月終わり。
「尾野さん、パソコンとかに縁のない人でも通信できるようなやさしいセットで、そう高くないものを教えてもらえませんか?」
といってきた。で、エプソンワードバンクLを紹介したところ、本人は六月はじめの里帰り時に東京に途中下車、秋葉原で購入しそれを持ってお見合に臨んだようだ。そしてデートもそっちのけで、まず彼女の家に行き電話線とワードバンクの接続をしてきたそうだ。
そうやって苦労した甲斐があったもので、二人は頻繁にメールの交換を行い始め、品田さんの七月の個人アクセス回数はそれまで常勝トップの原口君と同率首位(百三十五回/月)に並んでしまい、例会では原口君が「何ごと?」と目を白黒。夕美さんはどうどうと第十九位(四十一回/月)の登場であるがそのことは誰も指摘しないし気がつかない。婚約が成立して八月二十二日に喫茶コアラにさりげなく品田さんが婚約発表。皆は婚約相手がコアラメンバーの中にいると知ってもうびっくり。お祝いのメッセージが乱れ飛んでいる。
そういった熱気につつまれている矢先の九月七日、今度は藤野東京特派員の電撃的婚約発表。相手はなんと、喫茶コアラの看板娘の緒方好江ちゃん。
喫茶コアラは藤野君がつくったのだが、つくった当時も、彼が東京に出ていった時期も女性のネットワーカーの存在が考えられない状況だったし、そういった中で好江ちゃんの明るく他人を気遣うメッセージはたいへんに新鮮で我々を勇気づけたものだった。とくに東京からコアラをのぞく彼にしてみれば、彼女の存在が信じられない思いだったようだ。彼女を核にお嬢様クラブができたあとも、彼女のマエムキで物事を善意に捉え、それを明るく書き込むメッセージにファンが続出であったが、彼はその中でももっとも熱烈なファンで、こわごわとその旨のメッセージを送ったりするようになっていた。しかし、顔を会わせたこともない、ネットワークの中でのみの知り合いであり、喫茶コアラというバーチャルな文字コミュニケーション空間で知り合ったわけであって、個人的な関係にそう簡単に入れるものではない。彼のアプローチが一生懸命だったとしても、彼女の方はそう簡単に応えられるものではない。
しかし、彼の方はますます真剣さを増す。その熱烈さは一部の喫茶従業員には周知のことであったし、盆暮れに大分に帰ってくると何やかやと彼女を訪ねられるように周囲に依頼する。彼女もそういった彼の熱意と、コアラに書かれる彼の考えに彼の人柄を読みとるようになってきた。こういったネットワーク上を主体にしたやりとりが一年以上にも亘り、最後のほうは、彼は自分の想いを公開の場である喫茶の中に書きこむほどまで想いがエスカレートしていった。最後は押しの一手であろうか。そして、ついに二人は婚約成立。十二月に結婚式を挙げることになり、皆に隠し仰せるものでなく、品田組に引きづられてついに発表となったわけである。
コアラの中は二組の婚約者達、それも北海道と大分、東京と大分と離れているので、できるだけオンラインを使いたい二組でたいへんな華やかさであったし、まさしく本人達も、周りの者も〝ネットワークで人生が変わる〟ことを実感する毎日であった。
そして、品田組の結婚式が九月二十三日北海道で行われたが、その新婚初夜のホテルからの彼らのアクセスは、〝ネットワーク社会になった〟ことを痛感させるもので、持ち込んだワープロを二人で仲良く実名ネットワークであるコアラにつなぎ、「山田夕美」という登録名を「品田夕美」に変えるという、まるで市役所に結婚したことを届け出るように〝儀式〟を行った。そういったことが喫茶から垣間見れて、以降のコアラ内での結婚はこの儀式が慣例のようになっていったのもおもしろい。
また、後者の「新しい地域コミュニティの理念/COMNET」では、公文先生が東京集中化とそれを打ち破る方策として、〝地域コミュニティ〟に比した新地域主義としての〝ネットワーク・コミュニティ〟論を展開。タイミングよく公文先生の同主旨の論文が日経新聞に掲載され、参加者達は新聞より早く読めたことを喜んだし、それをベースに議論が回っていった。さらに、中央公論十月号に茂木敏充さん、野田さんが書いた『都会の不満、地方の不安』論を引用した公文先生の議論も参加者をより雄弁にさせた。
〝電子地域ネットワーク〟によってつくられたコミュニティは、一地域を核とはするが県境や国境を越え、社会的階層をも越えた新しい構成員によって互いの知恵や知識を共有し合い、刺激し合い、教育し合う過程で地域市民が勇気づけられていること。かつ過去の〝一方的に聞かされる側〟から解放されて、自らも自由に発言することが保証され、その発言にレスポンスをもらうことで自分の存在を肯定的に認めてもらえるという〝電子会議経験〟を経ながら、結果として自分への自信を少しづつ強めつつ、〝地域ネットワークが地域市民の活性化〟に紛れもなく効果があることを実感する毎日ではなかったか。

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