post105:通信手法の広がり

通信手法の広がり


 フォーマルな評価が広がれば、そのシステムがより技術的に確立されるようにノウハウづくりも行われていく。

 商工会議所全国大会の話を聞きにきていたKDDの上田敏樹さんは、即座にコアラのおもしろさに気がついて、KDDとしてコアラの賛助会員になるように社内調整。これがきっかけとなって、ホスト構築費の賛助会費三十万円へ結びついた。そして、KDD側では、トラフィックを上げるために日本国内から海外に向けての通信だけでなく、海外から日本国内へのパソコン通信アクセスを考え、コアラでいくつか実験を試みていた。

 当時は、どの雑誌をみても日本国内からアメリカの大手パソコン通信サービス「Compuserve」や「Source」などへアクセスすることのみが紹介されていた。海外から国内ホストへの日本語、漢字通信方法は確立されていなかった。国内には海外へ発信できるだけの力を持ったホストシステムが育っていない状況だった。コアラは、システム的にはパソコンをホストとする小システムではあるものの、他ネットにはない〝日本語のコミュニケーションが主体的に根付いている〟システムであり、これなら海外からアクセスしても楽しめる、と上田さんは判断したのだろう。で、彼は、大阪のKDDからアメリカ国内のパケット網アクセスポイントに直通電話をかけて、そこからKDDのパケット網VENUS-Pを経由してコアラにアクセスを試みる。

 パケット網とは、コンピュータのデータを細切れにして、それぞれを小包みのように行き先をつけて電話線に流してやるやり方で、コンピュータはスピードが速いので、結局は複数のコンピュータが電話線を共同利用することになり低価格で通信できる方式として遠隔海外通信の基礎となっていた。しかし、アメリカ主体の技術であってアルファベットは無理なく通信できるが、日本語漢字は文字化けしてしまい意味をなさない。そのためにパケット装置に対して通信時に適切なパラメータを与えてやって漢字が送れるようにするのだが、そのパラメータの組み合わせがややこしく試行錯誤があるのみ。

 一ヵ月間の試行錯誤で何とかパラメータを確定することができた。そして、それを十二月一日、大阪のKDD主催のVENUS-Pユーザー大会で私のコアラ講演時に披露した。それに先立つ十一月二十八日の日経産業新聞がこのことを一面のトップに近い場所に囲い記事で報道。その日は日経新聞大分支局新築の披露の日で、大分へのご祝儀記事であったとは思うが、技術系記事で地元大分発の報道が一面に載るようなことはそう滅多になく、うれしいやら面映いやらだった。

 この通信パラメータに関する記事を上田さんと共著でアスキー社の『ネットワーカーマガジン』八七年二月号に寄稿したが、こういったことが基礎となって、その後国内でいち早く海外会員を持つネットワークとして認知されることとなっていった。現にオランダ在住のリコーヨーロッパに勤務する栗村昌昭さんが海外会員第一号として入会してきた。その上田さんは、しばらくのちジュネーブにある国連の国際通信機関(ITU/国際電気通信連盟)に出向。数年間、国外からの通信を実際に体験することとなったはおもしろい。

 パケット通信は、KDDだけで問題になったわけではない。現在(九三年末)は、KDD以外の民間個人利用VANが簡易に海外通信できる手段を十分にサービスしているが、当時はKDDに頼るのみしかなかった。海外からアクセスする場合、その国のKDDのような国際通信業社と取り引きを行うために、その国内に銀行引き落としの口座や住所を持っておらねばならず、一時的な旅行者では制度的に利用が難しいなど、技術以外の問題もあった。

 NTTのパケット通信DDXーTPのほうには、もっと別の問題が出てきた。

 まず、NTTに利用を申し込みに行ってもNTT職員がそういったサービスを行っていることを知らない例が続出。サービス名を知っていても、どうやって受け付けてよいかわからない、といわれたり、今までの「もしもし」電話と「コンピュータ通信」の違いを職員からまず理解してもらわねばならない。とくに、東京のNTTに混乱が大きいようだった。ともすれば、地方から東京のホストへアクセスすることが多い中で、地方ネットではじめてパケット通信をサポートしたコアラでは、東京のコアラメンバーがDDXを利用すべく申し込みを行う、つまりNTTの想定とは逆である。技術者も含めて東京側NTTに混乱がひどかったように思うのは気のせいだっただろうか。コアラメンバーがNTT内部をたらい回しにされたレポートが報告されたりで、気をもむことしきりだった。

 また、コンピュータ通信が社会に浸透していないこともあって技術的混乱が散見。DDXにパソコンを使ってアクセスした場合、ホスト側が話し中/回線ビジーであると、音声で「あなたがおかけになったセンターには現在接続できません」と返事がきてしまう。パソコンはコンピュータ信号は理解できても音声は分別できず、結局はどうして接続できないのか?/ホストがダウンしているのか?/回線が悪いのか?/話し中なのか?どういう理由で接続できないのか?動きが止まってしまう。また、一秒間に数個のデータ(パケット)を立て続けに送ると、DDX回線内の処理が追いつかず、データ抜けを防止するために回線を強制断させるなど、VENUS-Pに比べて改善せねばならない事項が山積みであった。それでも過去の東京から一時間八千円の電話代に比べれば、二千円前後までダウンできるのでどうしても使いこなさねばならない。ということで、それなりの通信方法、通信ノウハウが徐々にコアラ内外に貯まっていくことになったのもおもしろい。



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